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N放送株買付の戦略は、すべてLの経営陣が自分たちで考え出したものだという説もそれ以後七十日余、日本国中が攻めるHと、守るFH会長との目くるめく戦いを、まるで映画でも見ているかのように楽しんだものだった。
この戦いの人間臭いドラマは各種のノンフィクションに譲ることにして、ここで確認しておきたいのは、どのような仕組みの中でN放送株をめぐる駆け引きがなされたかである。
まず、LはどこからN放送株の買付資金を得たのだろうか。 LはMSCB(転換価格修正条項付転換社債)を発行することによって、八百億円という巨額の資金をアメリカの投資銀行Lから得た。
MSCBとは株式に転換するさいに、その時の株価で転換価格を変えられる契約をしておく社債だ。 LはLからMSCBを購入したあと、L株を意図的に空売りして市場価格を下げ、その分だけ安くMSCBを株式に転換し、買収騒ぎでL株が十分に上昇したところで一気に売却した。
この取引でLは少なくとも百億円の利益を上げたといわれる。 他にも両者の周囲には、多くの「黒子」が群がっていた。
Lには米国系のS外国法弁護士事務所が接触し、FはN・O・T法律事務所がアドバイザーを務め、N放送にはH法律事務所代表のK利英明が社外取締役に就任しており、会社法に関する著作で知られるN弁護士もアドバイザーだった。 また、投資ファンドもいくつか控えていた。
もちろんMファンドは、先述の通り、LにN放送株の買付を煽っておきながら、インターネット上の時間外取引市場である「トストネット」で三百二十八万株を売却した。 途中で買い戻すなどもして、高騰したN放送株を巧妙に売り抜き、大きな利益を手にしている。
ある。 しかし、名うてのアメリカ系投資銀行が、急伸するIT企業を前に、甘い話で釣ってひと儲けしてやろうと思わなかったとしたら嘘だろう。
一方、Fの作戦に協力していたのはD証券SMBCだった。 D和証券SMBCは、以前よりF元議長のS宏明が持つN放送株を、株式移動を伴わない「信託受託」で預かつていた。
このN放送株を役立てる日を、虎視耽々と待っていたわけである。 N放送株を買い付けていたのは、Mファンドだけではなかった。
アメリカのファンド「S」も、Lの「トストネット」での買い注文に応じて、約三百四十八万株を売却した。 さらに、アメリカの投資ファンド「B」も「トストネット」の買い注文に約百三十六万株を売却して大きな利益を上げた。
Sの場合は、K村慶の「外資ファンド利回り17%超のからくり」(P研究所)によれば、次のようになる。 三年がかりで集めた株のすべてを二カ月間で一気に売却した。
すなわち、二○○五年の一月に 万株を単価5941円で、二月には残りを市場価格(6330円前後)で売却しており、272億円弱を手にした計算になる。 つまり、三年程度の間に170億円を投資し、272億円を回収し、102億円という利益を上げた(配当収入を除く)ことになるわけだ。
MファンドやBも似たような投資利回りだったと推測できる。 N放送買収騒動には、投資銀行、証券会社、法律事務所、ファンドなどが群がり、お祭りのようなM&Aビジネスを繰り広げていたのである。
問題は、いったい誰が「買収先の資産(あるいは多くの場合買収先の事業が生み出す将来のキャッシュフロー)」を担保に借金をできるのか、という点だ。 これが誰にでもできるのであれば、誰もが赤の他人の資産を担保に金銭を借りることができることになる。
Hは強気の発言を繰り返し、L内部ではLBOのプランも浮上していたという。 N放送株を五○%以上手にいれたら経営権を握り、N放送が保有する二二%余のフジテレビ株を核にTOBを発表する。
そのための資金は買収先であるFのキャッシュフローと資産を担保にするというものだ。 しかし、Mが逮捕前の記者会見で「HさんがN放送株を全部買うなんて、なかなか思っていなかった」と述べたように、N放送を買収することすら、とても無理と見るのが「プロ中のプロ」たちの認識だった。
ましてやFのLBOなど夢のまた夢で、さらに大きな困難がつきまとっていた。 実践の経験もあるM&Aの専門家・H達は、「M&A最強の選択」(日経BP社)のなかで、次のように指摘している。
争点のひとつとなった「トストネット」を用いる「時間外取引」に関しては、すでに食品会社のDノンが二○○三年四月に、同じやり口でY本社株式保有をいきなり一九・五八パーセントに押し上げ、筆頭株主に躍り出たことがあったから別に新しいことではない。 また、重要案件の拒否権が得られる三分の一以上の株式取得に「トストネット」を用いるのは、市場終値に限定される「トストネット2」は許されても、価格に限定のない「トストネット1」は、「トストネット」の設置意図からして違法だといわれた。
しかし、Lはに「一般論として」金融庁に問い合わせており、金融庁は「問題がない」と答えてしまつH部は、LがLBOを仕掛けたとすれば、買収が成功したとしても、F側で合併が株主総会の三分の二以上の支持で承認される見通しがなければ、どこの金融機関もLBOの資金提供はしなかっただろうと指摘している。 HのN放送株買付は、よほど楽観的な金融機関のバックアップがないかぎり、最終的にはグリーンメール(利鞘稼ぎ)となることが運命付けられていたのだ。
L事件が明らかになればなるほど分かつてきたのは、日本の政官財は、この事件で露呈した問題に対策を練っておくどころか、すでに長期にわたって能天気にもろ手も両足も挙げて賛同・加担してきていたという事実なのだ。 日本経団連のO碩前会長は、Lが仕掛けたN放送買収のさいに、Hの著作にあった「金さえあれば」という言葉を取り上げて、「日本社会ではまずい」とか「道徳的におかしいという批判は甘んじて受けるべきだ」などとコメントした。
しかし、当時、Oが会長を務めていたTタ自動車は、「道徳的」な態度は少しも示さず、株価で判断してN放送株を売り抜けている。 同社は九九年、イギリスのC&Wによる国際デジタル通信へのTOBのさいも、初めは「株価だけでなく、雇用などに留意して総合的に決める」などといっていたが、途中から「最後は株価で決めたい」と言い出し、結局、マネーゲームの論理に従ったものだった。
いや、それどころか、O前会長は後に「非常にミスった」と述べたが、Hを日本経団連に加入させてしまっていた。 すでに財界のリーダーたちも、そのビジネスの論理においてHやMファンドとなんら変わらなかった。
利益が基準のマネーゲーム型の経済を、自分たちに都合のよいところだけ摘んで、H人気に便乗していたのだ。 しかし、こうした非常な「ミス」はお笑い種としても、本当に問題なのは、日本の政官財が協力しあって金融の自由化、企業統治のアメリカ化、企業買収・合併(M&A)の円滑化に積極的に賛成し、次々と旧来の制度を変更してきたことである。
九七年の独禁法改正で純粋持株会社を解禁し、同年の商法改正により合併手続きの簡素化を進ませ、同年の証券取引法改正では公開買付の条件も緩和した。 また、海外からの資金移動をどの国よりも自由化した九八年の「ビッグ・バン」を断行。
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この取引でLは少なくとも百億円の利益を上げたといわれる。 他にも両者の周囲には、多くの「黒子」が群がっていた。
Lには米国系のS外国法弁護士事務所が接触し、FはN・O・T法律事務所がアドバイザーを務め、N放送にはH法律事務所代表のK利英明が社外取締役に就任しており、会社法に関する著作で知られるN弁護士もアドバイザーだった。 また、投資ファンドもいくつか控えていた。
もちろんMファンドは、先述の通り、LにN放送株の買付を煽っておきながら、インターネット上の時間外取引市場である「トストネット」で三百二十八万株を売却した。 途中で買い戻すなどもして、高騰したN放送株を巧妙に売り抜き、大きな利益を手にしている。
ある。 しかし、名うてのアメリカ系投資銀行が、急伸するIT企業を前に、甘い話で釣ってひと儲けしてやろうと思わなかったとしたら嘘だろう。
一方、Fの作戦に協力していたのはD証券SMBCだった。 D和証券SMBCは、以前よりF元議長のS宏明が持つN放送株を、株式移動を伴わない「信託受託」で預かつていた。
このN放送株を役立てる日を、虎視耽々と待っていたわけである。 N放送株を買い付けていたのは、Mファンドだけではなかった。
アメリカのファンド「S」も、Lの「トストネット」での買い注文に応じて、約三百四十八万株を売却した。 さらに、アメリカの投資ファンド「B」も「トストネット」の買い注文に約百三十六万株を売却して大きな利益を上げた。
Sの場合は、K村慶の「外資ファンド利回り17%超のからくり」(P研究所)によれば、次のようになる。 三年がかりで集めた株のすべてを二カ月間で一気に売却した。
すなわち、二○○五年の一月に 万株を単価5941円で、二月には残りを市場価格(6330円前後)で売却しており、272億円弱を手にした計算になる。 つまり、三年程度の間に170億円を投資し、272億円を回収し、102億円という利益を上げた(配当収入を除く)ことになるわけだ。
MファンドやBも似たような投資利回りだったと推測できる。 N放送買収騒動には、投資銀行、証券会社、法律事務所、ファンドなどが群がり、お祭りのようなM&Aビジネスを繰り広げていたのである。
問題は、いったい誰が「買収先の資産(あるいは多くの場合買収先の事業が生み出す将来のキャッシュフロー)」を担保に借金をできるのか、という点だ。 これが誰にでもできるのであれば、誰もが赤の他人の資産を担保に金銭を借りることができることになる。
Hは強気の発言を繰り返し、L内部ではLBOのプランも浮上していたという。 N放送株を五○%以上手にいれたら経営権を握り、N放送が保有する二二%余のフジテレビ株を核にTOBを発表する。
そのための資金は買収先であるFのキャッシュフローと資産を担保にするというものだ。 しかし、Mが逮捕前の記者会見で「HさんがN放送株を全部買うなんて、なかなか思っていなかった」と述べたように、N放送を買収することすら、とても無理と見るのが「プロ中のプロ」たちの認識だった。
ましてやFのLBOなど夢のまた夢で、さらに大きな困難がつきまとっていた。 実践の経験もあるM&Aの専門家・H達は、「M&A最強の選択」(日経BP社)のなかで、次のように指摘している。
争点のひとつとなった「トストネット」を用いる「時間外取引」に関しては、すでに食品会社のDノンが二○○三年四月に、同じやり口でY本社株式保有をいきなり一九・五八パーセントに押し上げ、筆頭株主に躍り出たことがあったから別に新しいことではない。 また、重要案件の拒否権が得られる三分の一以上の株式取得に「トストネット」を用いるのは、市場終値に限定される「トストネット2」は許されても、価格に限定のない「トストネット1」は、「トストネット」の設置意図からして違法だといわれた。
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いや、それどころか、O前会長は後に「非常にミスった」と述べたが、Hを日本経団連に加入させてしまっていた。 すでに財界のリーダーたちも、そのビジネスの論理においてHやMファンドとなんら変わらなかった。
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九七年の独禁法改正で純粋持株会社を解禁し、同年の商法改正により合併手続きの簡素化を進ませ、同年の証券取引法改正では公開買付の条件も緩和した。 また、海外からの資金移動をどの国よりも自由化した九八年の「ビッグ・バン」を断行。
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